『ローラ』 |
フランスの港町ナントをハイヒールを履いた細くしなやかな脚で仔犬のように跳ねる足取りで歩きまわるアヌーク・エーメ演じるローラから溢れ出る純情や、この世界を彩るあらゆる色をモノクロ画面の白で表すラウール・クタールのカメラ、映し出される光景のすべてを指揮棒に合わせ奏でるようなミシェル・ルグランの音楽。メルヴィルが「真珠の輝きをもつ作品」と賞賛したこの作品と20年近く前に出会って以来、その記憶を長い間ずっと愛おしく思い続けてきました。旅に出て各地の店を回る踊り子ローラが<エルドラド>という名のキャバレーで 'C'est moi, Lola!' と歌い踊るリハーサルの場面はあまりに魅惑的。ずっと再会かなわなかった本作を収録するJ・ドゥミ初期作品集DVDボックスが昨年ようやく発売されると知り迷わず購入しました。
立派な男になって戻ると7年前に町を出たミシェルを待ち続けるローラは唯一無二の初恋の相手だった彼との間に生まれた幼い男の子を1人で育てながら暮らしている。美しいローラに想いを寄せるアメリカ人水兵、幼なじみのローラと久々の再会を果たすローラン・カサール。ローランが偶然知り合う戦争で夫を亡くした女性とその娘。人生への野心や失望、恋のときめきや高揚、失恋。さまざまな喜怒哀楽が交錯するこのJ・ドゥミの長編第1作で出会った彼や彼女と、ドゥミ監督のフィルモグラフィーに続く『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』『モデル・ショップ』といった作品でその後の人生に出くわす楽しみが私達には与えられます。
物語の舞台ナントで生まれ育った9歳のドゥミ少年が同じ建物に住む1歳年上の女の子に寄せた初恋の思い出から生まれたという本作品は、まるでお伽話のように祝福されたハッピーエンドで幕を下ろすけれど、その先にはおもわぬ悲劇が待っていたり(私達はそれを知る)、無邪気な笑顔の背後に毒を秘める人間が潜む闇をのぞかせたり、不穏な世界の奥行をちらりと垣間見せるのもドゥミ作品ならではと言えるのかもしれません。
DVD発売を心待ちにしていた『ローラ』がようやく。『動くな、死ね、甦れ!』とも劇場で再会。いまだ待ち望む作品はだいぶ少なくなってきたけれど、たとえばJ・カサヴェテス監督『ラヴ・ストリームス』のDVD発売日はやって来るのだろうか。